さて、昨日はおバカネタを掲載してしまったので、今日はまじめなお話。
久々のCADのお話です。
以前「
ジュエリーCADを使ってジュエリー業界で仕事をする - 出来合いの道具に頼っては良い形はできない」という記事を掲載しましたが、今回はより具体的な例でこのことを考えてみます。
デザイナーさんから、この様なデザイン画が渡されたとします。デザインのポイントは、
1)リングは太い/細い、厚い/薄いを全周に亘って繰り返す。
2)繰り返しは均等に7回。
3)幅が広くなっているところは厚みが薄くなり、幅が狭くなっているところは厚みが厚くなる。
4)内甲丸を付けるが、指当りの外側はエッジを付ける。
5)リング内側から指当りの外側のエッジまでの高さは均一にする。
等です。
まず考えなくてはならないのは、これはCADでデータを作る合理性があるかどうかですが、これについては均等な分割、均等な繰り返しのデザインですから、申し分ないでしょう。
但し、これが特定のお客様向けのオーダー品でない場合には、データ作成上重要な条件が付きます。
このデザインは均等な繰り返しである為、1つ原型を作ってゴム型を取り、ワックスパターンのサイズを調整して多サイズ展開する、ということができません。つまり、ある程度は端折るとしても、複数のサイズ違いのデータを作る必要があります。ということは、容易に編集、修正ができるデータの作り方をしなくてはならないということなのです。
CADの教則本には、腕の断面形状をリング状に並べてスイープさせる、という例がよく出ていますが、それを必要なサイズ分作るというのは非常に面倒な作業ですよね。しかも後で説明しますが、スイープは案外思い通りになりません。希望形状にならないから断面を増やして…なんてやっていると、どつぼにはまります。しかも後からデザイナーに「ちょっとだけ形を変えたいんだけど…」なんていわれた日には、地道な苦労が水の泡です。
僕は、苦労は経験の一つであり必要なことだと考えていますが、単調に繰り返す苦労は決して有意義とはいえません。
上記は明らかに「しなくても良い苦労」です。
CADの教則本は「とにかく造型可能なデータが作れる様になる」ことを目的にして書かれています。スタートラインに立つ為には必要なことですから、こういった本や内容を否定するつもりはありません。何かしらの「形になる」ということは、とても大切な経験になります。
しかし、それはベストではありません。その方法を採り続ければ仕事ができるかといえば、そうではないのです。
さて、最初にすべきことは、そのデザインが「どの様な構造を持っているのか」を見抜くことです。考えもせずにデータ作りを始めても上手くは行きません。
このデザインは「7回の繰り返し」なのですから、その1単位の形さえ綺麗に作れれば、あとはコピーで良い訳です。そして、真っ直ぐに作って円形にフロー変換する、という方法を採れば、編集も更にし易くなります。
ではこの形をどう作りますか?
ここまでは判っても、これがうまくできない、とつまずく人は多いと思います。何故なら、安易なスイープで作ろうとしても、そうそう狙った形にはならないからです。
例えば、内側(下側)と外側(上側)の線をガイドラインにして、断面の2レールスイープをしたとします。波の高低に応じて、指当りの外側のエッジまで上下に波打ってしまうでしょう。更に、幅方向の波が綺麗になるかどうかが判りません。
では、両側の輪郭をガイドラインにして断面の2レールスイープをしたらどうでしょうか。今度は上下のコントロールが上手く利きません。
つまり、2レールスイープは片方を立てると片方が立たず、なのです。もし厚み方向、幅方向の両方の「波の形」がデザイナーから指定されていたとしたら、この方法は全く使えないと考えた方が良いでしょう。
勿論断面の指定箇所を増やせばその限りではありませんが、それでは先に書いた「しなくても良い苦労」に逆戻りですよね。
これは、以下に示す方法で作った腕を切り口から見たところです。上下、左右に波を打ちつつも、指当りの外側のエッジは高さ一定を完全に維持していますよね。さて、どうすれば良いのでしょうか。
基本となるのは、押さえたい箇所の骨組みをしっかりと作ることです。泥臭い作業ですが、これ以外にはないと考えています。自動的に色々とやってくれる機能は便利ですが、所詮は機械のすること、人間の意図を汲み取って図形を作ってくれることはないのです。
この場合では、
6)内側(下側)と外側(上側)を示す線
7)両側を示す線
8)指当りを含めた、ポイントとなる箇所の断面
です。
まず、両側を示す線をガイドラインにして、2レールスイープで内側の面を作ります。このとき「高さを維持」をチェックすると、幅の変化に高さ方向の変化が追随してしまうことがありません。
次に、片側の立ち上がりを作ります。
そして、立ち上がりの上辺と外側(上側)を示す線をガイドラインにして、2レールスイープで外側の面を作ります。
必要箇所をミラーでコピーすれば出来上がりです。
ポイントは、「寸法を維持しなくてはならない部分」と「寸法を滑らかに変化させたい部分」が図形内に混在している場合には、それらを分離して形を作っていく、ということです。先に書いた「どの様な構造を持っているのか」を見抜くとは、こういうことなのです。
この様なデータの作り方をしておけば、形状の修正も簡単ですね。フロー変形させるターゲットライン(=環形)の大きさを変えれば、リングサイズも自由自在です。一旦別な変形を加えてやればウェーブラインにすることも可能です。
このレンダリングは、基本的には以上の方法でデータを作ったものですが、それ以外にもより面を滑らかにする編集を加えていたり、外観を良くする為に制御点を調整していたりします。
画が描ければデザインができるという訳ではありませんね。
商品知識を持っていれば接客販売ができるという訳ではありませんね。
同様に、CADが使えればデータが作れるという訳ではありません。
手加工する職人が独自のノウハウやセンスを持っているのと同様に、CADにはCADのノウハウやセンスが必要なのです。
「CADの機能を数多く知っているが、それらの機能でできる形しか作れない人」と「ベタで泥臭い編集をしつつも、デザイナーの意図する形を自在に作れる人」、どちらがアテになるかは明白ですよね。